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大田原簡易裁判所 昭和34年(ハ)25号 判決

原告 佐瀬貞次郎

被告 関谷政司

右訴訟代理人弁護士 諏訪徳寿

主文

被告の原告に対する大田原簡易裁判所昭和三十三年(ハ)第七十四号貸金請求訴訟事件の執行力ある和解調書正本に基く強制執行は之を許さない。

訴訟費用は被告の負担とする。

前記裁判所昭和三十四年(サ)第四十五号強制執行停止決定を認可し、原告は之が仮執行をなすことができる。

事実

≪省略≫

理由

被告は昭和三十二年十月十一日訴外室越勇に対して金八万円を貸与した事実及び被告が右消費貸借契約に基いて原告として本件原告及び訴外室越、同平山を被告として大田原簡易裁判所昭和三十三年(ハ)第七十四号訴訟事件を提起し、昭和三十三年十月二十三日裁判上の和解が成立し原告は右訴外者二名と連帯して元金八万円及び損害金四千円、計八万四千円を支払う義務あることを認め之を分割して昭和三十三年十月末日限り四万円、昭和三十四年三月以降昭和三十五年一月迄毎月末日限り金四千円宛を支払うことを約した事実については双方に争いがないところ、公文書としてその成立の認められる乙第一号証記載の請求の原因によれば、原告が訴外平山と共に右訴訟においては被告として、訴外室越の貸金債務の連帯保証債務の履行を求められていることは明らかであり、一般に裁判上の和解の各条項は請求の原因と関聯して解すべきものであるところ、右裁判上の和解においても本件原告は、請求の原因との関聯上主たる債務者室越の連帯保証人としての連帯保証債務を認め、原告と連帯して之が履行を約したと解するのが相当である。即ち右裁判上の和解によつて確定した原告の債務の本質は連帯保証債務である。原告が右裁判上の和解によつて連帯保証人の地位を脱して一般的な連帯債務者となつたという即ち債務の更改があつたと認められる証拠は全然存しない。連帯保証債務は一種の保証債務であり所謂補充性は有しないが主たる債務に附従し主たる債務者について生じた事由は原則として連帯保証人に対しても絶対的効力を生じ主たる債務が消滅したときは連帯保証債務も又当然消滅すること論を俟たない。主たる債務者室越が被告に元金四万円、費用その他損害金二万円計六万円を弁済しその際被告より残債務の免除を得たことは双方に争いのないところ。右免除によつて訴外室越の主たる債務は消滅したのであるから連帯保証債務である原告の債務も又消滅に帰したこと自明である。

被告が右裁判上の和解の執行力ある和解調書正本に基いて原告に対して強制執行をなした事実は、双方に争いのないところ、前示の如く原告の債務は既に消滅したのであるから和解調書は債務名義としての効力を失つたものであり、右和解調書正本に基く強制執行の排除を求める原告主張の異議は理由があると認められる。(因みに被告主張の如く原告は前記裁判上の和解によつて連帯保証人の地位を脱して一般的な連帯債務者となつたとしても、訴外室越に対する前記免除については民法第四百三十七条が適用されて原告の債務は訴外室越の負担部分だけ減縮するので被告の宇都宮地方裁判所大田原支部昭和三十四年(ル)第一号債権差押及び取立命令の強制執行は不適法である。)よつて原告の請求を認容し、訴訟費用の負担については民事訴訟法第八十九条を、強制執行停止命令の認可及び之が仮執行の宣言については同法第五百四十八条を夫々適用して主文の通り判決する。

(裁判官 武本俊郎)

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